夏の終わり。
一足遅い休暇を揃えた僕らは、カンヌでバカンスを共にした。
のんびりとランチを終えて、日光浴をしながら昼寝でもとバルコニーのサンベッドに掛けた僕を、「船に乗ろう」と強引に誘った彼は、秋色に和らぎ始めた日差しにしかめた顔にサングラスをかけた。
てっきり遊覧船の類だと思っていたら、ハーバーに向かった彼は、小型のプレジャーボートを指して「乗って」と笑った。
静かにハーバーを出たボートはスピードを上げて沖へ出ると、美しい南仏の町並みを左に眺めながら沿岸をゆるりと北上していく。
僕の隣でボートを操縦するその横顔がどこか固いのは、不慣れで緊張しているからかもしれない。
「君って、ボート運転できたんだ」
「…ああ、10年ちょっと前、仕事で必要があって」
「そう」
声を張り上げる僕に負けじと声を張った彼は、白い歯を見せて笑った。
生ぬるい潮風をきって、踊りながらなびく巻き毛が、碧い海によく似合う。
普段より生き生きとして見える横顔は、古代ギリシャやローマの彫刻みたいで、何か甘酸っぱい気持ちになる。
流れる陸が白い崖と緑になると、スピードを落としたボートは、むき出しの岩肌のゲートをくぐると、人気のない小さな入江に入った。
エンジンを切った彼が「それで」と唇の端を上げて、僕はボトルの水に口をつけた。
シャンパンも持ってくればよかったと思いながら、胸に引き寄せた彼の体は熱く、僅かに汗が混じる潮の香りがする。
二人で転がれるだけの狭いデッキで抱き合った僕らは、穏やかな波に揺られながら腰を振る。
僕の陰でサングラスを外した彼は、まだ熱い陽射しに灼かれる僕の背に手足を巻き付けて、嬉しそうに笑う。
乾いた唇で繰り返す愛は、甘く懐かしい。
変わったものと変わらないものを確かめ合った僕らは、気が済むまでオレンジに暮れてゆく波間を漂っていた。


お久しックス!みたいなもの。
オペレーション・フォーチュンを観たら、プレジャーボートに乗るようななシーンがあって思いつきました
地中海バカンスでプレジャーボートでいちゃちゃ、映画やドラマであるあるなシチュエーションではあるけれど。
※オペレーション・フォーチュンの二次創作ではありません。


投稿日:

カテゴリー:

タグ:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です